プロトン化ポルフィリンを基盤とする超分子構築と光誘起電子移動

 サドル型H2DPPは容易にプロトン化され、安定なジプロトン化体[H4DPP]X2を与える。このジプロトン化体は対アニオン(X-)と水素結合を形成し、超分子構造を構築する基盤となる。また、カルボン酸を用いると、ジプロトン化体が形成されるのに対し、スルホン酸誘導体を用いると、珍しいポルフィリンモノプロトン化体が形成される(Chem. Commun. 2009, 4994)。

 H2DPPの塩酸塩[H4DPP]Cl2は、クロロホルムーアセトニトリル中から結晶化し、超分子構造「ポルフィリンナノチャンネル(PNC)」を形成する。この超分子構造では、ナノサイズのゲスト包接サイトに水分子及びクロロホルム分子を包接している(PNC-water)。さらに、ヒドロキノンなどの電子供与性分子を共存させると、そのゲスト包接サイトに取り込んだ「PNC-guest」が形成される。これに対して、電子受容性分子であるキノン類は包接されず、PNC-waterが形成される。すなわち、PNCはゲスト分子の電子的性質を認識してそれらを包接する。

 この電子供与性ゲスト分子を包接したPNC-guestは、355 nm以上の波長の光を照射すると、ゲスト分子からH4DPP2+への光誘起電子移動が進行し、ゲスト分子のカチオンラジカルが安定化され、電子移動状態が生成する(Chem. Eur. J. 2007, 13, 8714)。このようにしてH4DPP2+に移動した電子は、結晶内でポルフィリン間のπ—π相互作用を通じて伝導電子となり、光導電性を発現する(Chem. Mater. 2008, 20, 7492)。これに基づいて、PNC-guest超分子を用いた色素増感太陽電池を作成し、その光電変換効率(IPCE)を11%と決定した。

 サドル型ポルフィリンジカチオンは、2分子のカルボン酸とポルフィリン平面の上下から2点水素結合を形成し、超分子構造を形成する。4−ピリジンカルボン酸をサドル型亜鉛フタロシアニン錯体に配位結合させ、新規なポルフィリン—フタロシアニン複合超分子の合成を行った。

 この超分子構造は溶液中でも保持されることが、CDCl3 中でのDOSYスペクトル測定により明らかとなった。この複合超分子を光励起すると、フタロシアニン部分からポルフィリンジカチオンへの超分子内光誘起電子移動が進行し、667 psの寿命を有する電子移動状態が形成される(Angew. Chem. Int. Ed. 2008, 47, 6712)。

 この現象を一般化し、H2DPPとカルボキシル基を有する電子供与体(Donor; D)を水素結合により超分子化した、[H4DPP](Donor-COO)2を合成した。この超分子内光誘起電子移動は、非断熱型電子移動であり、強い水素結合のためにやや小さなD-A間距離依存性( = 0.64 Å–1)を示す(J. Am. Chem. Soc. 2010, 132, 10155)。

一方、このサドル型フタロシアニンは、サドル型ポルフィリンと同様に比較的安定なジプロトン化体を与える。また、そのZn(II)錯体では、メソ位窒素がプロトン化されることを見いだした(Angew. Chem., Int. Ed. 2011, 50, 2725)。また、周辺部にブトキシ基を8つ導入したフタロシアニンでは、メソ位がすべてプロトン化されたフタロシアニンが分子内水素結合により安定化されることも見いだした(Chem. Commun. 2011, 47, 7986)。

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