アミド結合を介した機能性官能基の導入による特異な配位圏の構築

トリス(2−ピリジルメチル)アミン(TPA)にアミド結合を介して様々な官能基を導入すると、TPA部分に加えて、1つのアミド酸素の配位が起こり、導入した官能基を1つの方向に収斂させることができる。その結果、ルテニウム錯体に特異な第2配位圏を構築することができる。さらには、その導入する機能性官能基を自在に設計・合成することにより、ルテニウム錯体に新しい機能を付与することができる。

 例えば、ナフタレン環を導入することにより疎水場を構築し、その疎水場での非共有結合性相互作用の発現を制御する(CH/π vs. π—π)ことができる(Chem. Eur. J. 2004, 10, 6402;下図)。さらに、配位アミド部位のN-Hプロトンの可逆な脱着による、ルテニウム中心の酸化還元電位が500 mVにわたって制御できる(Inorg. Chem. 2004, 43, 6793)。

 フェロセン部位を導入したRu(II)-TPA錯体においては、多段階の可逆な酸化還元過程を示し、Ru(III)とFe(III)との間にアミド結合を介した強磁性相互作用が発現する(Inorg. Chem. 2008, 47, 886)。

金属配位サイトとしてカテコール部位を導入した錯体においては、Cu(II)-ジアミン錯体と1:1の錯形成が進行し、上図に示すように、カニが2つのはさみで1つのえさ(金属イオン)を補足したようなヘテロ2核錯体が得られる(Inorg. Chem. 2010, 49, 3737)。一方、1,10-フェナンスロリンを導入した錯体では、2つのRu(II)-(η6-aryl)錯体を収斂させ、その共同効果による水素移動型水素化反応の促進を見いだしている(Inorg. Chim. Acta 2011, 374, 104)。

また、金属配位サイトとして2,2’-ビピリジンを導入したRu(II)-TPA錯体にCu(II)錯体を配位させた場合、配位アミドN-Hプロトンの可逆な脱着に基づいて、Ru(II)イオンとCu(II)イオンの間で電子が往復する現象、「プロトン共役電子シャトリング」を創出した(JACS 2011, 133, 18570)。

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