研究内容
概要
当研究室では、無機化学を基盤とし、ナノ材料科学やソフトマター物理との境界領域において、精密無機合成の新たな方法論の開拓に取り組んでいます。原子配列や構造単位を高度に制御することで、従来の物質設計指針では到達し得なかった新しい構造と物性の創出を目指しています。これまでに、複数の原子を高度に集積させ一つの大きな原子のように振る舞う「超原子」や、高い熱安定性と秩序構造を併せ持つ無機液晶など、物質観を刷新する新しい物質群を見出してきました。
我々の目標は、合成化学の力によって物質の構成原理そのものを問い直し、新たな概念に基づく機能物質群を創出することにあります。精密無機合成を通じて、物質科学の基礎を深化させることを使命としています
研究内容
1.精密無機合成による新たな無機量子材料の開拓
これまでに、界面を利用した二次元錯体の合成や、有機鋳型を用いた超原子・無機クラスターの合成、さらには合成と結晶化を同時に行う単原子層物質の創製に取り組んできました。その代表例として、ホウ素単原子層材料(化学ボロフェン)の化学的ボトムアップ合成があります。BH₄⁻塩を前駆体とし、常温・常圧下で合成可能な本手法は、無機材料でありながら化学的な精密制御を可能にします。
このような特殊な反応場や界面環境を活用し、新たな無機量子材料の創出を目指します。化学的精密制御を鍵として、未踏の機能発現に挑戦していきます。

2.化学ボロフェンの開発と機能開拓
我々が開拓した化学ボロフェンは、酸素を含むホウ素ネットワーク構造からなるアニオン性二次元材料であり、カリウムなどのアルカリ金属カチオンとの積層結晶として得られます。溶媒に可溶であるため、溶液プロセスによる単原子層の取り出しや成膜が可能であり、グラフェンなどでは困難な液相プロセス型デバイス作製を実現します。近年では、層間カチオンを変更することで、室温で無機液晶相を示す材料バリエーションの開発にも成功しています。これらの成果を基盤として、フレキシブルかつ完全無機からなる新しい二次元ナノ材料プラットフォームの構築を進めています。
(1)無機液晶機能
加熱処理により積層結晶が液晶相へ転移することを見出しました。この無機液晶は、塗布による基板配向制御が可能であり、有機配向膜との複合も容易です。
(2)異方的な電子伝導
積層方向の電子伝導は抑制されており、結晶全体として顕著な異方的電子物性を示します。この異方性は、材料設計やデバイス構造検討において重要な特徴となります。
(3)静電容量の増大機能
無機液晶相では、層間イオンの動的応答により高い誘電特性が発現します。この性質を電極材料として利用することで、静電容量が大幅に増強されることを実証しています。

代表的な論文
- Kambe et al., Nat. Commun., 16, 1073 (2025).
- Kambe et al., Nat. Commun., 13, 1037 (2022).
- Kambe et al., J. Am. Chem. Soc., 141, 12984–12988 (2019).
